【社労士が解説】脳出血の後遺症で障害年金の申請する際の注意点やポイントとは?

障害年金を申請し受給するためには、満たすべき要件があります。今回は、脳出血で後遺症のある人が障害年金を申請できるかどうか、徹底的に解説します。

  • ①脳出血とは?
  • ②脳出血で障害年金を申請する条件
  • ③等級判定ガイドライン
  • ④障害年金の手続きの流れ
  • ⑤医師へ診断書を依頼するときの注意点

脳出血とは?

脳出血とは、脳の中にある細い血管から出血し、脳の中に血液が溜まります。溜まった血液が塊となり血腫になり、脳を圧迫したり脳細胞を壊したりして脳の働きを妨げます。体の一部が動かせなくなるなどの運動機能に影響が出る場合があります。その他に、言葉が話しづらくなる、記憶できなくなる、目が見えにくくなるなど、出血が起きた脳の部位によって症状が異なります。ある程度、リハビリしても症状が改善されない場合は障害として症状が残るため、介護が必要なるケースもあります。

 

脳出血で障害年金を申請する条件

障害年金を申請するためには大切な2つの条件があります。それぞれ見てみましょう。

初診日に年金に加入している

脳出血で病院を受診した時に、国民年金か厚生年金のいずれかに加入している必要があります。「受診状況等証明書」という書類があり、初診日がいつでどの病院を受診したかを証明しなければなりません。

 

保険料を納付している

初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合委員機関を含む)と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上である必要があります。20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、この条件は不要となります。

これは簡単に言うと、国民年金の場合は保険料をしっかり納めていないと障害年金を申請できないということを意味しています。

 

いずれの条件も満たしている必要がある

「初診日に年金に加入している」、「保険料を納付している」という2つの条件は必ず満たしている必要があります。例えば、脳出血で重い障害が残り寝たきりになったとしても、この2つの条件を満たしていなければ、障害年金を申請することはできません。

脳血管疾患は障害認定日の特例がある

上記の条件を満たしていれば、障害認定日の翌月分から障害年金を受給できます。

障害認定日とは通常、「初診日から1年6ヶ月を過ぎた日」です。
脳血管疾患では、初診日から「6ヶ月を経過した日以降、症状が固定した日」を障害認定日とする特例があります。

この特例は、機能回復がほとんど望めず症状が固定した、と医師が判断したときに認定されるものです。

脳血管疾患ではほとんどの場合、リハビリテーション(以下リハビリ)が行われるでしょう。

リハビリの目的が、どの時点から「機能回復」ではなく「現状維持」になったのかは重要なポイントとなります。

等級判定ガイドライン

脳出血の場合、障害は出血した脳の部位により異なります。今回は「身体の障害」、「言語機能の障害」、「高次脳機能障害」の3つに分けて説明します。障害年金には等級があり1級が一番重く、3級が軽度の障害程度となります。申請をするまでに国民年金と厚生年金のどちらも加入した経験がある方は、初診日に加入していた年金制度により、国民年金か厚生年金かが判定されます。

 

身体の障害

脳出血では、体が麻痺して日常生活が不自由になる後遺症が出る場合があります。そのような場合は、自分での生活が困難になりサポートが必要になります。等級の判定基準は下記の通りです。

等級

障害の状態

1級

日常生活を送るのに必要な動作の全てが一人では全くできない状態

2級

日常生活を送るのに必要な動作の多くが一人では全くできない状態

3級

日常生活を送るのに必要な動作の一部が一人では全くできない状態

※難しい言葉はできるだけ使わず、分かりやすくしています。

専門家によるワンポイント解説

片麻痺の程度は、関節可動域、筋力、巧緻性、速さ、耐久性を考慮し、日常生活における動作から総合的に評価します。
日常生活の動作が1人では全くできない状態なのか、どの部分ができないのか、手指・上肢・下肢それぞれでのチェック項目を用いて補助具なしで評価を行います。

3級以降では「労働に著しい制限を受ける状態か」という点も考慮されますので、働いているからといって障害年金を受給できないわけではありません。

言語機能の障害

脳出血で言語機能に障害が残る場合があります。失語症や音声障害などがこれに当たります。等級の判定基準は下記の通りです。

等級

障害の状態

1級

言語障害の場合、1級の判定はありません。

2級

日常会話が成立しないほどの障害がある。

3級

日常会話が部分的に成り立つものの多くの制限がある。

※難しい言葉はできるだけ使わず、分かりやすくしています。

専門家によるワンポイント解説

失語症や構音障害などの言語障害では1級がありません。
2級以降での基準が設けられていますが、言語障害は程度の判断が難しいことから評価基準も曖昧になっています。

言語障害により日常会話が「誰とも成立しない状態」であれば2級。
「互いに推論したり、たずねたり、見当をつけることなどで部分的に成立する状態」であれば3級ですが、人それぞれの個別性が大きく影響する点から、評価に難しさがあります。

構音障害の場合は、「そしゃく・嚥下機能の障害」を併存している場合が多く、失語症の場合は片麻痺である「肢体の機能の障害」、この後に述べる高次機能障害による「精神の障害」を併存している場合が多いです。

言語障害での申請の場合は特に、併合認定も考慮しましょう。

高次脳機能障害

高次脳機能障害とは、言葉を忘れる、正しく言えない、物を認知できない、運動機能は正常なのに目的の動作ができない、記憶できないなどの症状を伴う障害です。等級の判定基準は下記の通りです。

等級

障害の状態

1級

ひどく物が認知できない、人格の変化が激しい、その他のひどい精神状態がはっきり表れ、常に誰かがサポートしていないといけない状態。

2級

物が認知できないことや人格の変化、その他の精神症状がはっきり表れ、日常生活にかなりの影響を及ぼしている。

3級

物が認知できないことや人格の変化は大きくなく精神症状をあり、仕事に影響を与えている。

※難しい言葉はできるだけ使わず、分かりやすくしています。

専門家によるワンポイント解説

高次機能障害とは認知障害、記憶障害や感情障害など、さまざまな症状があります。
一見、障害があるかわからず周囲から誤解されたり、ご本人・ご家族にとって大変負担が大きい部分でしょう。

高次機能障害では「精神の障害」の基準を用いて評価を行います。
日常生活はどの程度援助が必要か、対人関係や社会性も含めての評価となります。

3級以降では「労働に著しい制限を受ける状態か」という点も考慮されます。
失語症は高次機能障害にも含まれますが、認定基準は「音声・または言語機能の障害」です。

 

障害年金の手続きの流れ

障害年金を申請するときは一般的に下記の流れを取ります。

1.初診日を確定する

2.保険料の納付要件を満たしているか確認する

3.受診状況等証明書を取得する

4.医師に診断書を作成してもらう

5.病歴・就労状況等申立書を作成する

6.申請に必要な書類(戸籍謄本や通帳のコピーなど)を揃える

7.年金事務所か市区町村役場(または役所)に提出する

 

医師へ診断書を依頼するときの注意点

医師によっては、「あなたの症状は軽い」ので障害年金は受給できないと判断され、診断書の作成を断られるケースがあるようです。また、診断書は作成してくれたものの、実際の症状よりも軽く書かれていることもあります。

背景には、医師が障害年金制度や障害年金の判断基準を理解されていない場合があるようです。無理に診断書を書いてもらったり、修正してもらったりするよりも、障害年金の制度を丁寧に説明して理解してもらうことで、スムーズに物事を進めることができます。

病院に相談員やリハビリの専門職がいる場合、医師との間に入ってやりとりして助けてもらいましょう。

診断書が実際の症状よりも軽く書かれている場合は、自分の症状が医師に伝わっていないことも考えられます。自分が日常生活をどのように送っているか、誰にどのように援助してもらっているかを具体的に伝えることで、実際の状態を診断書に反映してもらうことができるでしょう。

 

早めに障害年金を申請できるケースがあります!

本来、障害年金を申請できるのは、初診日から1年6ヶ月経過した障害認定日以後となります。しかし、脳出血の場合は1年6ヶ月を経過する前に申請できる特例があります。リハビリを受け、今後もほとんど症状が変わらないと医師が判断した場合には、症状固定という状態になります。

症状固定とは、「医学的観点からそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められる」ことを言います。簡単には後遺症がそれ以上改善しない状態のことです。初診日から6ヶ月経過していれば障害年金を申請できます。

 

お問い合わせください

脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患での申請の場合、障害認定日の特例があったり、認定基準の複雑さから申請を先延ばしにしたり、諦めてしまう方もいます。しかし、ポイントをおさえれば受給できる可能性があります。
あきらめず、前向きに申請を検討してみてください。

障害年金の申請についてご不明な点などがございましたらどんな些細なことでも構いませんので遠慮なくご連絡をいただければと思います。

執筆者紹介

下斗米 貴彦
下斗米 貴彦
社会保険労務士 下斗米 貴彦(しもとまい たかひこ)

宮城県仙台市を中心に全国で障害年金申請をサポートしている。累計相談実績約600件(2024年6月現在)